従業員のミスと損害賠償請求その1-従業員の責任は会社の責任?-
はじめに
弁護士の山口真彦です。
まず、本題に入る前にお知らせをさせてください。
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従業員への損害賠償請求について
本日から数回に分けて「会社から従業員への損害賠償請求」についてご紹介したいと思います。
会社が従業員に損害賠償請求をするのは、次の2パターンが考えられます。
1. 従業員のミスによる損害
まず一つ目は、従業員のミスにより会社に損害が発生した場合です。
2. 従業員が第三者に与えた損害
次に、従業員が第三者に損害を与えてしまい、第三者から会社に対して賠償請求がなされ、会社が第三者に損害賠償を行った場合です(いわゆる使用者責任)。
求償権の行使と使用者責任
会社が第三者に対して負担した賠償金を従業員から取り返すことを、難しい言葉ですが「求償権」と言います。
求償権を行使する場合、下記のパターンが考えられます。
- 業員がミスをして会社に直接損害を与えた場合
-
(例)従業員が何の前触れもなく退職等をしてしまい、その結果会社に損害が発生した
- 従業員が第三者に損害を与えた場合
-
(例)社用車を運転していた従業員が交通事故を起こしてしまった
この場合、会社が使用者責任を負う可能性があります。
会社が被害者に損害賠償をすると、従業員に対して求償するということが想定されます。
会社から従業員への損害賠償請求の問題のポイント
会社から従業員への損害賠償請求について、以下2点が問題となります。
- そもそも、会社が従業員に対して損害賠償請求や求償権を行使することが認められるのか
- 認められるとしても、その範囲は会社が負担した損害賠償額と同額なのか
この点について、リーディングケースと呼ばれる最高裁の判例があります。
その判例では次のように判断されています。
会社がその事業執行につきなされた従業員の加害行為により直接損害を被り、または会社として損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合、会社はその事業の性質・規模・施設の状況・従業員の業務の内容、労働条件・勤務態度・加害行為の対応・加害行為の予防もしくは損失の分散についての会社の配慮の程度・その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる限度において、従業員に対して損害賠償または求償の請求をすることができる。
※文言が分かりにくいので、若干文言を変えて引用しています。最高裁の判例どおりの文言ではありませんが、中身は同じです。ご留意ください。
会社の責任要素
上記を簡単にまとめると、基本的に会社は直接損害を被ったり、第三者に対して損害賠償責任を負担することによって間接的に損害を被ったりした場合、会社は基本的に従業員に対して、損害賠償の請求や求償権の請求は原則できる。ということです。
しかし、先程ご紹介したとおり、会社の事業の規模・性質・施設の状況・従業員の業務内容・加害行為の対応等、諸般の事情を考慮した上で、従業員の責任の範囲は限定されますよ。ということです。
例えば、会社が100万円の損害を被ったら、100万円満額を従業員から取り返すことができるのではなく、責任の範囲は諸般の事情を考慮して範囲は限定されるということです。
従業員の責任要素
この責任の範囲を決めるうえで、最高裁が考慮すると言う要素を分けると、4つの視点で見ることが出来ます。
- 会社の事業に関する要素(どのような事業を行っているのか)
- 従業員に関する要素(従業員がどのような状態で働いていたのか、仕事内容や勤務態度がどうだったか)
- 会社に関する要素(会社は、その損害が発生しないために何か予防をしていたか、保険に入っていたか)
- その他の要素
以上の4つの視点を踏まえると、裁判において従業員の責任は、概ね5%から25%に制限されるかたちになっています。場合によっては50%やそれ以上、逆に従業員の責任は全く無い(免責されている)という事例もあります。
この割合は事案によって異なるので、どのくらい従業員から取り返せるのかというのは、個別の事案次第というのが正直なところです。
この話をお伝えすると、「従業員のミスなのになぜ、会社は全額請求できないのか?一部または全額負担させることはできないのか?」と疑問に思われる経営者の方もいらっしゃると思います。
しかし、基本的に会社は従業員の活動によって利益を上げています。そのため、活動から生じる損失も基本的に会社が負担すべきとされています。全額を従業員に負担させるという理論は、裁判においては通じないということを肝に銘じていただきたいと思います。
それを肝に銘じたうえで、次回は従業員のミスによるリスクをいかに分散させ、会社としてどのように対応するのが適切なのか。ということについてご紹介していきます。
本日は以上です。ありがとうございました。