定年後再雇用〜「再雇用は最高よ!」のために〜 その⑥

定年後再雇用〜「再雇用は最高よ!」のために〜 その⑥
stand.fm「ウィンベルリスクマネジメントチャンネル」書き起こし
【2024年7月19日放送 労働法#12 定年後再雇用その6〜「再雇用は最高よ!」のために〜】

はじめに

弁護士の山口真彦です。

本日は経営者のための労働法講座をお届けします。

本題に入る前に少しお知らせをさせてください。

現在配信中の「経営者のための労働法講座」に加え、メルマガも始めました。

現在は「会社を守る最強の就業規則ができるまで」をテーマに連載中です。就業規則の規定例なども掲載しており、非常に参考になると思いますので最後に登録フォームがございますので、ぜひご登録ください。

定年後再雇用の更新と雇い止め

さて、本日は、これまで連続でお届けしてきた定年後再雇用シリーズの最後のテーマになります。 「定年後再雇用の更新と雇い止め」についてご紹介したいと思います。

定年後再雇用の場合、多くは1年間の有期雇用契約となります。その場合、65歳までの継続雇用が原則であるため、更新が必要です。

そこで、以下についてお伝えしたいと思います。

  • 更新の際に 雇い止めができるのか
  • 雇い止めができるとして、 どのようなトラブルが生じる可能性があるのか

雇い止めはできるのか

高齢者雇用安定法によれば、会社には65歳までの継続雇用制度を設ける義務があります。

そのため、契約更新時に「雇い止めを行ってもいいのか。」という問題が出てくるのですが、 法律上は65歳まで必ず継続雇用しなければならないという義務までは課されておらず、制度さえあればよいという形になっています。

そのため、65歳未満の方についても雇い止めは可能です。

ただし、何でも雇い止めが認められるわけではありません。通常の契約社員と同じく、 雇い止め法理が適用されます

この、雇い止め法理についても述べていきます。

雇い止め法理について

雇い止め法理とは、 解雇と同様に雇い止めをするには、正当な理由が必要であるという考え方です。

具体的には、労働契約法19条に基づき、以下2つの場合においては、雇い止めをするには客観的合理性と社会的相当性がないと雇い止めは認められません。

  1. 過去に複数回更新を繰り返し、実質的に期間の定めのない契約と同視できる場合
  2. 労働者が期間満了時に更新されるであろうと合理的な期待を有している場合

定年後再雇用の場合

この点、定年後再雇用の場合は上記2つの場合に該当するのでしょうか。

定年後再雇用では、労働者は基本的に65歳まで更新されて雇用が維持されるだろうと期待します。

そうすると、上記2つ目のパターン「合理的な期待を有している場合」に該当するため、定年後再雇用をした従業員を雇い止めするためには、客観的合理性と社会的相当性が認められなければいけないということになります。

つまり、有効な雇い止めを行うためには、 事前の準備が重要になります

以前、 定年後再雇用をしない場合についてご紹介した際に「解雇事由・退職事由に該当しないといけませんので、客観的合理性と社会的相当性が必要です。」とお伝えしていました。今回の雇い止めの件も全く同じです。客観的合理性と社会的相当性を認めてもらうには、繰り返しになりますが、事前の準備が重要です。

定年後とはいえ、人事考課や指導教育制度について、通常の従業員 同様に制度を定めて、しっかりと運用を行い、その過程の中で証拠を残しておくことが重要です。

この点は日常から意識をしておかないと、いざという時に有効に雇い止めができず、トラブルに発展してしまうこともあります。

今一度、自社の制度とその運用について振り返っていただければと思います。

無期転換申込権と高齢者再雇用との関係

高齢者の再雇用に関して、質問が非常に多い事項がありますので、補足させていただきます。特に60歳から65歳まで1年毎のように更新が続いていく場合についての質問になります。

それは、 高齢者の無期転換申込権と高齢者再雇用との関係についてです。

無期転換申し込み権とは、有期労働契約の更新により、 その期間が通算して5年を超えた場合、無期契約に転換する権利が法律上与えられることです。

  • 高齢者の場合、60歳から65歳までの継続雇用が義務付けられているので、60歳から繰り返し継続雇用を更新したら、無期転換申込権が発生するのでは?
  • 65歳以降は有期契約ではなく、無期契約になるのか?

この不都合を回避するために、これからお伝えする2つの要件を満たす必要がありますので、注意して読んでいただきたいです。

逆を言えば、 この2つの要件を満たせば、定年後再雇用の従業員に対して、無期転換申込権を発生させないということが出来ますので、しっかり抑えておきましょう。

無期転換申込権の回避

定年後再雇用の従業員に対して無期転換申込権を発生させないためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 高齢者の場合、60歳から65歳までの継続雇用が義務付けられているので、60歳から繰り返し継続雇用を更新したら、無期転換申込権が発生するのでは?
  2. 65歳以降は有期契約ではなく、無期契約になるのか?

特に2点目については、 手続きを失念しているケースがよくありますので、注意してください。

この2つの要件を満たしていれば、定年後再雇用の従業員が5年間更新されたとしても、無期転換申込権は発生しません。

ただし、今はインターネットで検索すれば様々な情報が出てきます。従業員が無期転換申込権について知っていることもあります。

そうすると、65歳まで頑張って働けば、また無期雇用で雇ってもらえると勘違いする場合もありますので、従業員との紛争・トラブルを防止するために、必ず対応していただきたいことがあります。

それは、定年後再雇用をする時に従業員と締結する雇用契約書の中に「上記2つを満たしているので、無期転換申込権は発生しない。」ということを契約書に必ず明示をしてください。そうすることで、無用なトラブルを防止することができます。

法律上の要件を満たしておけばそれでいいとするのではなく、雇用契約書にも記載をして、相手にも配慮をした対応をするのが良いかと思います。

おわりに

定年後再雇用のトラブルを防止するためには、雇用契約書の書き方や人事考課・評価制度を制定・運用し、証拠を残しておくことが非常に重要です。弊所では、上記に対応した雛形なども用意していますので、興味のある方はお問い合わせください!

さて、今回で定年後再雇用シリーズは終了となります。

今回までにお伝えをしていない定年後再雇用のトラブルは他にもありますので、またご質問等をいただけましたら、その都度お伝えしていけたらと思います。

次回からは、新たなテーマについてご紹介していきます。どうぞ、お楽しみに!

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弁護士山口真彦
山口真彦
弁護士

ウィンベル法律事務所/ウィンベル合同会社代表。

大学卒業後、中小企業で営業マンとして勤務したのち弁護士へ。

弁護士登録後は、自身が中小企業で勤務していた経験をもとに、企業に関わるすべての人を幸せにするために弁護士にできることをテーマに日々活動している。

交渉学に基づいた交渉術を駆使し、早期円満解決がモットー。

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