定年後再雇用〜「再雇用は最高よ!」のために〜 その⑤
はじめに
弁護士の山口真彦です。
本日も定年後の再雇用に関するトラブルについてお話しします。
本題に入る前にまずは少しお知らせをさせてください。
現在配信中の「経営者のための労働法講座」に加え、メルマガも始めました。現在は「会社を守る最強の就業規則ができるまで」というテーマで、毎週連載をしています。
就業規則の規定例なども載せており、非常に参考になると思いますので、ぜひ末尾の登録フォームからご登録ください。よろしくお願いいたします。
同一労働同一賃金と定年後再雇用の関係
さて、本題に入りましょう。
今回のテーマは、定年後の再雇用において定年前と仕事内容が変わらないにもかかわらず、賃金などの条件が切り下げられた場合のトラブルについてです。
一般的に、定年後の再雇用では、定年前の条件よりも賃金などが切り下げられることが一般的ですと前回の「 定年後再雇用〜「再雇用は最高よ!」のために〜 その④」でお話ししましたが、これは 仕事内容や責任が軽減されていれば問題はありません。
しかし、 仕事内容が変わらないのに条件が切り下げられた場合、同一労働同一賃金の観点からトラブルになる可能性があります。
長澤運輸事件
有名な事例として、長澤運輸事件があります。
この事件を簡単に説明すると、定年退職後に再雇用された従業員が、定年前と同じ職務内容でありながら賃金が3割程度低くされ、賞与の支給停止をはじめ、役職手当、皆勤手当、住宅手当(家賃補助)、家族手当(扶養手当)などもなくなりました。
このような条件は同一労働同一賃金について規定してある労働契約法第20条という条文に違反しており、条件は無効であると主張し問題となりました。
最高裁は、これらの手当ごとに合理的か不合理かを判断しました。
例えば、皆勤手当については、皆勤手当の目的(皆勤を奨励する)が正規雇用労働者でも非正規雇用労働者でも変わらないため、不合理な待遇差と判断されました。
一方、住宅手当や家族手当については、定年後再雇用の社員とは違い、正社員には様々な年齢層が労働者として存在しており、生活実態が異なるため補助が必要であるため、差を設けることは合理的と判断されました。
同一労働同一賃金対策の4つのポイント
では、同一労働同一賃金の問題について会社が取るべき対策はどのようなものがあるのでしょうか?ポイントは、以下の4点です。
①仕事内容と責任の軽減
定年後の再雇用においては、従業員の体力面を考慮し、仕事内容や責任を軽減することが重要です。これらを軽減することで労働内容が変わる=賃金を同一にする必要がなくなることになるので、同一労働同一賃金の問題が生じにくくなります。②賃金体系の検討
長澤運輸事件や過去の判例を参考に、賃金体系を手当ごとに検討しましょう。
③待遇差の説明準備
賃金体系の待遇差について、合理的に説明できるよう準備をしておくことが必要です。なぜその手当がなくなるのか、なぜ金額が下がるのかを明確に説明できるようにしましょう。
④事前の説明
定年を迎える従業員には、再雇用の前に賃金体系について十分に説明することが重要です。合理的な説明を十分に行っておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
私の専門分野である交渉学的に見ても、ここが一番重要だと思います。
経営コンサルタントの和二達也さんの言葉を借りると、「 先に言えば説明、後で言えば言い訳」です。事前の説明がトラブル予防に大いに役立つのです。
トヨタ自動車事件
次回は定年後再雇用シリーズの最終回となります。
本日は以上です。ありがとうございました。