定年後再雇用〜「再雇用は最高よ!」のために〜 その④

定年後再雇用〜「再雇用は最高よ!」のために〜 その④
stand.fm「ウィンベルリスクマネジメントチャンネル」書き起こし
【2024年7月5日放送 労働法#10 定年後再雇用その4〜「再雇用は最高よ!」のために〜】

はじめに

弁護士の山口真彦です。

本日も引き続き、定年後再雇用のトラブルについてご紹介します。

今回のテーマは、「 定年後の再雇用時に労働条件を切り下げた場合に起こりうるトラブル」です。

6定年後の再雇用では「こういう条件で働いてもらいます」と労働条件を従業員に提示することになりますが、その際に賃金を下げる、勤務日数を少なくするなど、条件を切り下げることが大半です。その場合に起こりうるトラブルについてお話します。

労働条件の切り下げに関するトラブル

まず大前提として、「 高齢者雇用安定法」という法律が会社に課している義務は、65歳までの雇用の確保です。

つまり、雇用さえ確保すれば、 労働条件は定年前と同じでないといけないという制限は法律上ありません。従業員との話し合いの中で決めていくことになりますが、 基本的に会社側が自由に提示することができるというのが原則になります。

そのため、多くの企業では定年前より賃金を下げたり、勤務日数を少なくしたりという対応をしています。

実際にトラブルになった事例として、京王電鉄の事件をご紹介します。

京王電鉄の再雇用制度における問題

事件の概要

京王電鉄では、再雇用の制度として、人事考課の成績を見て成績が高い従業員と低い従業員という2種類に分けていました。

人事考課の高い従業員には定年後の再雇用においても正社員と同様の業務に従事してもらい、成績が低い従業員には、定年後の再雇用において車両清掃業務に従事してもらうという制度を定めていました。

そして、定年を迎えたとある従業員は、会社から再雇用後は車両清掃業務に従事するように言われます。

しかし、その従業員は

  • 別の従業員は正社員と同様の業務に従事しているのに、なぜ私は車両清掃業務なんだ。
  • このような制度は違法だ。

と主張し、会社を訴えました。

裁判所の判断

しかし、前述のとおり、原則は会社側が自由に労働条件を定めることができます。

裁判所は、 定年後再雇用において、労働条件を会社の実情に応じて多様かつ柔軟なものにすることは許容される。とし、京王電鉄の定年後再雇用制度を有効だと判断しました。

定年後再雇用時の労働条件の合理性に関する注意点

定年後再雇用時の労働条件は、基本的に会社側が自由に設定できるとお伝えしましたが、注意点があります。

それは、 定年後再雇用時の労働条件に合理性がないとされた場合、違法だと判断されて会社側が裁判で負けることがあるという点です。

具体的な事例として、 トヨタ自動車事件というのがあります。

トヨタ自動車事件

この裁判は、定年前にオフィスワークをしていた事務職の従業員が定年を迎え、会社側は再雇用の条件として、工場での清掃業務を提示しました。

さらに、賃金についてもこれまでより低い賃金を提示されたため、その従業員は不服に思い、トヨタ自動車を訴えたという事例です。

この裁判ではトヨタ自動車が負けてしまいます。

これまでの内容を見て「あれ?定年後再雇用時の労働条件は自由に設定できるのでは?」と思われたかもしれません。

しかし、これはあくまでも 日本を代表するトヨタ自動車での事件という点に注意してください(お時間があれば原文を読んでいただきたいのですが、お忙しい方もいらっしゃるかもしれませんので、簡単にご説明します。)。

この事例を読むときのポイント

トヨタという大企業では、多種多様な業務があるはずです。

それにも関わらず、

  • オフィスワークをしていた従業員に工場内の清掃業務という軽作業を指示したのか
  • 他にもその従業員の能力に見合う業務があったのでは

この点について、トヨタ自動車側は合理的な説明ができず負けてしまったという事例です。

定年後の条件提示における合理的な説明の重要性

我々がこの事例から学ぶべき点は、「定年後再雇用の条件は会社側の自由ではないのかもしれない」ということではありません。

重要なのは、定年後再雇用の条件を提示する際、その条件を出した理由について 合理的な説明ができるようにしておく必要があるという点です。

中小企業は、トヨタのような大企業と比べると多種多様な業務はないはずです。業務に対するポストも限られていると思います。

そうすると、「うちの仕事としては、今は清掃業務しかありません。」と提示することに合理的な説明は比較的可能だと思います。

さらに、先程の京王電鉄のように人事考課により労働条件の差を設ける際、 どういう場合に差が出るのか判断基準を必ず明確に定めておき、きちんと運用をすることが大切です。

前回もお話しましたが、 制度は定めるだけではダメで、しっかりと平等に運用していくことが重要です。

定めた制度を厳格に運用していないと、仮に裁判所となった場合に

  • 例外があるようなので、この運用ではダメです。
  • この労働条件を提示することには合理性がないです。

という判断をされてしまう危険性もありますので、この点をしっかり徹底していただきたいと思います。

重要なポイントを抑えることは、トラブル防止に欠かせない事ですので、定年後再雇用について対策をしたいという方は、お気軽に弊社までお問い合わせください!

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弁護士山口真彦
山口真彦
弁護士

ウィンベル法律事務所/ウィンベル合同会社代表。

大学卒業後、中小企業で営業マンとして勤務したのち弁護士へ。

弁護士登録後は、自身が中小企業で勤務していた経験をもとに、企業に関わるすべての人を幸せにするために弁護士にできることをテーマに日々活動している。

交渉学に基づいた交渉術を駆使し、早期円満解決がモットー。

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