定年後再雇用〜「再雇用は最高よ!」のために〜 その②

  • [CATEGORY] 労働法
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  • [DATE] 2024.06.28
  • [UPDATE] 2024.06.28
定年後再雇用-再雇用は最高よ!のために-その2
stand.fm「ウィンベルリスクマネジメントチャンネル」書き起こし
【2024年6月21日放送 労働法#8 定年後再雇用〜「再雇用は最高よ!」のために〜 その2】

はじめに

弁護士の山口真彦です。

本日も前回に引き続き、定年後再雇用に伴うトラブルについて扱いたいと思います。

前回、定年後の再雇用に伴うトラブルの全体像についてご紹介しました。

今回からは、その問題について1つずつ具体的に解説したいと思います。

本日は、

  • 定年後再雇用の具体的な問題
  • 対策方法

この2点についてお話したいと思います。

定年後再雇用の具体的な問題

1.60歳の定年時に従業員が再雇用を希望した場合

原則として企業は、希望者全員を再雇用しなければならないというルールになっています。

前回お話しましたが、例外として再雇用を拒否できる場合が2つありました。

  • 病気など、心身の故障のために業務に耐えられない場合
  • 勤務状況が著しく不良で、解雇または退職事由がある場合

2.解雇・退職事由に関するトラブル

心身の故障の場合は、比較的トラブルになることが少ないです。

しかし、会社が解雇事由があると考えて再雇用を拒否した場合、従業員との間でトラブルが生じてしまいます。

従業員に解雇事由があると伝えて再雇用を拒否すると、従業員側から「解雇事由はない、再雇用されるべきだ。」と反論をされてトラブルになるということです。

ここでの注意点は、『従業員に有効かつ解雇可能な程度の問題が認められるかどうか』という点です。

つまり、会社が形式的に判断して再雇用を拒否することはできないのです。

日本では、従業員を解雇するのは非常にハードルが高いです。

解雇には、客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上相当である必要があります。

3.再雇用の拒否に関する裁判例

一般社団法人NHK サービスセンター事件(横浜地裁川崎支判令3・11・30)では、「就業規則に定める解雇事由に該当し、継続雇用しないことについて、客観的に合理的理由があり、社会通念上相当であると認められる必要がある」と判断しています。

つまり、再雇用を拒否する場面において、客観的に合理的理由であり、社会通念上相当であることが認められないと、再雇用の拒否は有効にできないのです。

難しい話をしましたが、「こんなに問題のある従業員なら、再雇用を拒否しても仕方ない。」ということが、「周囲から見ても明らかと言える必要がある。」という程度で理解いただければいいかなと思います。

従業員の評価と再雇用対策

では、会社はどのような対策をすべきか、押さえていただきたいと思います。

前提として会社がやるべきこと

1. 全従業員の評価・仕組みづくり

従業員に問題がある・無いに関わらず、定年後の従業員をどう活用するか、人的資源管理の観点から、全従業員について評価等をする必要性と仕組みづくりを行いましょう。

2. 問題のある従業員への対策

当然、評価や仕組み作りをしていくと、問題のある従業員が認知されてきます。

その従業員については、定年前から有効に定年後の再雇用の拒否ができるように対策する必要があります。

そのためには、仕組みづくりと、仕組みの運用をすることが重要になります。

この後にご説明する、定年前の段階から取り組むべき対策を行うことで、場合によっては、その従業員の問題が解決することがあります。

解決すれば、再雇用してもいいという判断にもなりますので、しっかりと対策することが大切です。

具体的な対策とは

1.  従業員の問題点を具体的に提示

その従業員の具体的な問題とは何か、会社側から従業員に対して「あなたの問題点はここです。」と具体的に提示をすることです。

この時、必ず提示した内容を記録に残すようにしてください(例:注意書、指導書等)。

2. 問題点を改善する機会を従業員に与える

「あなたにはこういう問題があるので、何月何日までに改善できるよう、こういうことを行ってください。」と問題点を改善する機会を必ず与えてください。

問題点を提示し、それに対する改善策を従業員と話しながら改善できれば、従業員自身が自分の問題点を認識します。

そして、自分で気づいて自ら行動することがベストですので、従業員に対してうまくアプローチをすることが大切です。

そのためにもコーチングの技術が非常に有効になります。改善策を従業員と話し合いながら決めていき、指導書等の書面に記録を残しましょう。改善策は、必ず期限を決めることがポイントです。

また、従業員との話し合いの過程を記録に残すことも大切です。議事録や録音に残しておくのが一番ベストかと思います。

3.改善策を講じた後の結果

結果についても必ず記録化しましょう。

改善策を提示して期限を決めても、日々の忙しさのあまりそのまま放置してしまう会社は結構多いです。

しかし、それでは全く意味がありません。

必ず決まった期限に従業員と再度の面談を行い、改善策を講じた結果どうなったか、会社側の見解を伝える機会を必ず設けてください。

その際、当初提示した問題点がどうなったか、具体的に指摘を行います。その点も必ず記録を残してください。

おわりに

ご紹介した対応策について、面倒くさいと思うかもしれません。

しかし、一つ一つ丁寧に対応して記録化する過程を愚直に繰り返すことで、再雇用を拒否したいと会社側が判断した時に、従業員とうまく交渉することができます。

そして、円満に解決できる可能性が高まります。

話が少し脱線しますが、よく自分の権利を強く主張する人がいますよね。

例えば、

  • セクハラされた
  • あの従業員はとんでもない奴だから解雇されて当然だ

などです。

こういった自らの権利を主張する人がいます。もちろん、このような権利を主張することは大いに構いません。

しかし、一つ知っていただきたいのは、権利を主張することには大きな責任が伴うということです。

自分の権利を主張するには、その主張が誰からも認められる根拠・証拠を残しておく責任があります。この点をしっかり抑えておいてください。

今回の定年後再雇用の問題についても同じです。

会社は、解雇事由に該当するから拒否するという権利があります。

しかし、その時には必ず再雇用拒否したいという主張が、誰からも認められるような根拠・証拠を残しておかなければなりません。

そのために、前述のとおり定年前から対策を愚直に繰り返して記録化するということが非常に大事になってきます。

少し厳しい書き方になったかもしれませんが、読んでいただいた方には、このような権利を主張するためには責任が伴うということを意識していただきたいと思います。

繰り返しになりますが、定年後再雇用を拒否するには事前の対策が必要であるとご理解いただけたと思います。

弊社では、事前の対策のための指導書等のひな型も用意しています。

定年後の再雇用について対策をしたいという方は、ぜひ一度弊社までお問い合わせいただけたらと思います。

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弁護士山口真彦
山口真彦
弁護士

ウィンベル法律事務所/ウィンベル合同会社代表。

大学卒業後、中小企業で営業マンとして勤務したのち弁護士へ。

弁護士登録後は、自身が中小企業で勤務していた経験をもとに、企業に関わるすべての人を幸せにするために弁護士にできることをテーマに日々活動している。

交渉学に基づいた交渉術を駆使し、早期円満解決がモットー。

PROFILE