交渉の4つの原則とは その1「人」
はじめに
今回からは、「原則立脚型交渉」の4つの原則について、1つずつ紹介していきます。
本日の原則は、1つ目の「人」です。
この原則は、【人と問題を切り離す】ことを指します。
たとえば、このような場面を想像してください。
ある夫婦の会話
ただいま。
おかえり。
おい、夕食の準備はまだか?
本当に、あなたは私のことを何も理解してくれてないのね。私だってほんの10分前に仕事から帰ってきたのよ!準備なんてできる訳ないじゃない!
なんだよ、その言い方は!俺はただ聞いただけじゃないか?
いつもそうよ。脱いだ靴下は裏返しのままじゃなくて、元に戻しておいてって言ってるのに、いつも裏返しのままでしょ?食事の後の食器も下げてくれないし、トイレだって座ってしてってお願いしてるのに立ってするし・・・・
いかがでしょうか?この夫婦の会話(喧嘩?)の原因は何でしょうか?
夫の立場からすると、単に「夕食ができていない」ということを指摘しただけ(あと、どのぐらいで夕食の準備が整うのかを知りたかっただけ)で、それ以上の意図はなかったと思われます。
しかし、妻はそれを夫から自分への批判と捉えてしまったのだと思います。妻も忙しい仕事を終え、帰宅し、ほっと一息ついたタイミングだったのでしょう。
なぜ、このようなことになるのでしょうか?
それは、人には感情があるからです。感情があるために、人によって事実に対する認識が大きく違ってくるのです。
夫は単なる夕食の準備ができていないという事実の指摘だったものが、妻はその時の感情によって、「旦那の帰りまでに夕食の準備もできないダメな嫁」という批判と認識してしまったわけです。
同じことが交渉の場面でも多く発生します。自分の主張する利益に感情が絡んでしまうと、あらぬ誤解を生んだり、認識の齟齬で交渉が難航したりします。
親事業者と下請け業者とのやり取り
次は、このような場面を想定してください。親事業者と下請業者とのやり取りです。
先週、発注した製品の製造なんだが、来月末納品だと取引先から間に合わないと言われたんだ。だから、すまんが、今月末までに納品してくれ。
いや、そんな急に無理ですよ。来月末でもギリギリなのに、それはあんまりですよ。
そうか、できないなら、うちとの取引が今後どうなってもいいんだな?うん?
いや・・・それは・・・
寝ずにやれば間に合うだろう。違うか?
・・・はい。
とんでもない親事業者ですが、もし、下請業者の経営がこの取引に依存している場合、このような強気な態度で来られると下請業者としては、譲歩せざるを得ないですよね(親事業者も立場を利用してそれを狙っている。)。
また、今後両者の関係は完全に悪化しますよね。そうなると、これまでの良好な関係は崩れ、お互い不利益を被るかも知れません。
この交渉は、当事者の一方が親事業者の方が力関係で強いという人間関係(立場)に基づいて行ってしまっているため、問題が生じてしまっているわけです。
つまり、人間的要素(感情、関係性や立場など)を切り離すことなく交渉を始めてしまうと交渉はうまく行かないのです。
そこで、原則立脚型交渉では、「人と問題を切り離す」ことから始めます。
人間的要素を排除し、交渉の相手方に立ち向かうというスタンスではなく、両者の間に存在している「解決すべき問題」に着目するのです。
先ほどの親事業者と下請業者とのやり取りであれば・・・(親事業者が高圧的な態度で来たとしても、感情的になってすぐに反論するのではなく)
それは、急ですね。御社もその対応に追われて大変ですよね。そもそも、なぜ、急に今月末と取引先から言われたのですか?
このように親事業者の視点を「解決すべき問題」(=今月末に納品するためにはどうすべきか。)に向けるような質問をするわけです。
おわりに
このように、交渉においては、人間的要素が優れた合意(結果)を効果的かつ友好裏にもたらすことを阻害することがあります。
そこで、まずは、その人間的要素を排除することが大切なのです。
今回は以上です。次回は、2つ目の原則である「利益」についてお話したいと思います。