傷害部分の被害者請求について(自賠責保険の概要~請求)
前回、医療機関での診断書・診療報酬明細書の取り付け方をご紹介させていただきました。
その際、こちらで取り付けが必要なパターンとして、以下のとおり記載をしていました。
- 一括対応をしていない自費通院分の治療費を相手方へ請求
- 相手の自賠責保険会社へ傷害部分の被害者請求
今回は、この中の「傷害部分の被害者請求」についてご紹介します!
自賠責保険について
本題に入る前に、自賠責保険の概要を見ていきましょう。
自賠責保険(正式名称:自動車損害賠償責任保険)は、日本国内で自動車を所有・運転するすべての人が加入を義務付けられている強制保険です。
事故で被害を受けた第三者(被害者)が保険金の受け取り対象となります(物損は対象外)。
自賠責保険では、死亡・傷害・後遺障害それぞれの限度額が決まっています。
- 死亡
- 最高3000万円
- 傷害
- 最高120万円
- 後遺障害
- 最高120万円
そして、傷害部分(治療費、休業損害等、傷害部分の慰謝料等)について、被害者側が直接相手の自賠責保険へ請求することを「傷害部分の被害者請求」といいます。
「直接請求」と呼ぶこともあり、代理人である弁護士が請求することもできます。(後遺障害部分の被害者請求については後日ご紹介したいと思います!)
なお、請求の結果120万円を超えてしまった場合は、限度額までの支払となります。
- 傷害部分の被害者請求は1回請求済みでも、限度額を超えていなければ再度請求することができます(例:1月~2月分の治療費や交通費等を請求し、その後3月分の治療費や交通費等を請求する等)。
自賠責保険について
- 交通事故により受傷したものの、様々な理由により一括対応されていない場合
- 相手が任意保険に入っておらず、自賠責保険のみの場合
このような時に傷害部分の被害者請求をします。
受傷して治療が必要になると、当然治療費がかかります。
更に休業をすると収入も減ってしまいます。相手が一括対応を保留にしていると、その間の生活が苦しくなりますよね。
そのため、自賠責保険に対して被害者請求を行い、損害賠償額を支払ってもらいます。
注意点としては、請求額が満額認められるわけではないこと、受傷否認と判断されることもあるという点です。
それでは、1つずつ見ていきましょう。
請求額が満額認められるわけではない
限度額があるというのも理由の1つですが、各損害項目の中には支払基準があります。
自賠責保険の支払基準で計算されますので、請求額が丸々認められるわけではありません。
- 治療費等については、対象の交通事故による怪我で治療したものと認められると、限度額の範囲内で実際にかかった治療費が支払われます。
受傷否認と判断される可能性
受傷否認とは、今回の事故で受傷することはないと判断されることをいいます。
物損が著しく軽微な場合、クリープ現象による追突、低速での逆突等の事故状況は注意が必要です。
- 軽微と判断されそうな事故態様の事案で被害者請求を希望されている場合、弁護士からリスク説明を行ったうえで方針を決めることが重要かと思います。
- 一括対応については「一括対応と自費通院の違い」に記載しています!
手続き方法
それでは、請求する際の必要書類等を確認しましょう!
請求先
相手の加入している自賠責保険会社です。
- 自賠責会社については、交通事故証明書の加害者について記載されている欄に載っています(加害者については甲欄に載っていることが多いです。乙欄に載っていることもあるので、加害者名を確認しておきましょう)。
- 自賠責保険の請求先の住所は、ネットや電話確認等で調べておきましょう。
必要書類
01.送付書
添付書類が多いので、何を送ったか詳細に残しておくことをオススメします。
- 記載しておくとよいもの
-
- 請求額に対し、いくらが認定・支払われたのか内訳を記載した書類があると、損害計算や依頼者へお伝えする際に便利です。内訳書依頼の記載をしていないと添付されないこともありますので、必要であることを強調して記載しましょう!
- 通院交通費や休業損害の請求をしない場合、送付書にもその旨を明記しておくと親切かと思います(添付漏れかどうかの判断のため)。
02.支払請求書兼支払指図書
ぱっと見た感じ、入力欄が多くて大変そうですね。
しかし、入力する部分は決まっているので、そんなに難しくはありません。
それでは、入力欄ごとに解説していきます(黄色マーカー部分を入力しましょう)。
請求者欄の印は、弁護士の印鑑証明書の印を押印します。
自賠責保険証明書番号や当事者情報については、交通事故証明書を確認して入力します。
支払い指図書欄には、損害賠償金をどの口座に振り込んでもらうか入力します。
入金の流れは、事案や事務所の方針等で異なります。事前確認のうえ入力しましょう。以下パターン①・②のいずれかを指定することが多い印象です。
- パターン①
- 全額を弁護士預かり口座に指定し、各支払先へ振り分ける。
- パターン②
-
未払いの治療費(施術費・薬剤費)のみ医療機関の指定口座へ直接入金、それ以外の項目を弁護士預かり口座に指定する。
- 医療機関等が治療費(施術費・薬剤費)の請求を保留にしていることがあるため、この場合にパターン②を指定することがあります。
03.請求者(=弁護士)印鑑証明書(原本)
- 弁護士会で発行してもらいます。
- 取得日の期限は特にないようですが、なるべく新しいものを使用しましょう。
04.交通事故証明書(写し)
05.事故発生状況説明書(原本)
事故発生状況報告書ともいいます。依頼者に記入してもらいましょう。
06.診断書・診療報酬明細書(原本)
- 必要期間分を取り付けます。傷害部分の被害者請求では、請求額に関する書類は基本的に原本が必要になります。
- どうしても取得できない場合、依頼者が窓口で受け取る領収書・診療報酬明細書の原本を添付することもありますが、損害保険料率算出機構 自賠責調査事務所(自賠責保険の損害調査を行う機関)より提出を求められることもあります。
07.施術証明書・施術費明細書(原本)
整骨院へ自費通院がある場合は取得します。
08.調剤報酬明細書・請求書(原本)
依頼者が窓口で受け取る領収書・明細書の原本で足りることもあります。
取得については、弁護士に確認しましょう。
09.通院交通費明細書、領収書(原本)
依頼者に記載してもらいましょう。タクシーや高速道路、新幹線、飛行機等を利用した場合は領収書の原本も添付します。
- 書式は任意です。使いやすいものを作成・使用してください。
10.休業損害に関する書類
- 会社員・パート・アルバイトの場合は、依頼者の勤務先に休業損害証明書を書いてもらい、事故前年分の源泉徴収票の写しとあわせて発行してもらいます。
- 個人事業主の場合は、確定申告書と収支内訳書の写しを添付します。
11.委任状・委任者(依頼者)の印鑑証明書(原本)
- 自賠責用の委任状があります。
- 「委任者」部分について、依頼者に署名・捺印してもらいます。なお、委任状の押印は、印鑑証明書の印です。依頼する時にふせん等でその旨を明記しておくとよいでしょう。
- 委任者の印鑑証明書は、発行から3か月以内のものを使用しましょう。期限があるので、依頼のタイミングに注意してください。
- ※部分は、「2 損害賠償額」→「ア 全額」を指定することが多いです。
12.物損資料(被害車両・加害車両)
必須ではありませんが、損害額が大きい場合や車両の損壊状況が酷い場合に添付することがあります。
なお、添付していなくても損害保険料率算出機構 自賠責調査事務所より提出を求められることもあります。
13.その他の書類
上記以外にも請求する費用や事故態様に関する補足資料を出すときは添付します。
金額請求に関する書類(領収書等)は、原本が必須です。
続きは次回…!
請求後の流れ等については次回ご紹介したいと思います!どうぞお楽しみに!